物理工学輪講第二
7月2日
[注意事項]
輪講第二の「題目」・「要旨」は発表の1週間前までに office[at]ap.t.u-tokyo.ac.jp 宛てに送付して下さい。
発表日
2024年7月2日(火)14:55〜16:55

Aグループ

発表者名 井本 滉哉
指導教員名 吉見 龍太郎 准教授
論文題目 トポロジカル絶縁体における表面ディラック状態とトポロジカル不変量
要旨 トポロジカル絶縁体とは、スピン軌道相互作用のような摂動によってバンドが反転することで、バルクはバンドギャップの存在する絶縁体であるにも関わらず表面にはギャップのない金属的なバンドを生じる物質である。表面バンドは波数に線形なエネルギー分散を持つことがあり、スピンと運動量の向きは互いに直交してスピン偏極している。このような特徴的な表面状態のことを「表面ディラック状態」と呼ぶ。
本発表では、トポロジカル絶縁体の概要と時間反転対称性によって守られた表面ディラック状態について解説を行う。また、トポロジカル絶縁体とそうでない自明な絶縁体を区別するために定義される「トポロジカル不変量」と、バルクに非自明なトポロジカル不変量を有するトポロジカル絶縁体において表面ディラック状態が出現する背景についても解説を行う。
発表者名 竹川 歩喜
指導教員名 吉見 龍太郎 准教授
論文題目 トポロジカル絶縁体表面における量子異常ホール効果
要旨 トポロジカル絶縁体の表面状態では、自発的に時間反転対称性を破ることで、ゼロ磁場でもホール伝導度が量子化する量子異常ホール効果という現象が生じる。ホール伝導度はベリー曲率というパラメータ空間における幾何学的な量と密接に関係している。本発表では、異常ホール効果から出発してホール伝導度とベリー曲率の関係を導入し、トポロジカル絶縁体表面でホール伝導度が量子化するメカニズムを主に説明する。最後に、実験的研究として、磁性元素のドーピングや磁気近接効果によってトポロジカル絶縁体表面で量子異常ホール効果を実現した研究を紹介する。

Bグループ

発表者名 松田 諒太
指導教員名 齊藤 英治 教授
論文題目 低対称系における非相反電気伝導
要旨 非相反電気伝導は、物質中の電流の流れやすさが順方向と逆方向で異なる現象である。従来、本効果はpn接合をはじめとする接合系での観測に留まっていた。ところが近年、同様の非相反電気伝導現象がバルク系でも発現することが実験的に報告され、注目を集めている。本発表では、その典型例として群速度が波数に対して非対称になり発現する非相反電気伝導、及びBerry曲率に由来する非線形Hall伝導を紹介し、その物理的機構を解説する。
発表者名 山内 あおい
指導教員名 齊藤 英治 教授
論文題目 非線形相互作用を用いたマグノンコヒーレンス異常の観測
要旨 マグノンとは、磁化の歳差運動が波として伝播する磁気秩序(スピン波)の素励起である。マグノンの位相は従来のスピントロニクスでは活用されてこなかった。というのも、Gilbert緩和と呼ばれる磁気緩和機構により、マグノンの位相コヒーレンスが高々100nsという極めて短い時間で消失してしまうためである。本発表ではマイクロ波ポンプ・プローブ測定法という新たな手法を開発することで、従来よりも非常に長いコヒーレンス時間の観測に成功した最新の研究成果[1]について紹介する。
[1]Nat. Mater. 23, 627-632 (2024).
発表者名 山本 大雅
指導教員名 齊藤 英治 教授
論文題目 強磁性半導体中の内因性スピン軌道トルク
要旨 結晶中の電子はBloch波束により記述され、真空中ではみられない様々な現象が発現する。特に巨大なスピン軌道相互作用を有する空間反転対称性の破れた結晶中では、電流により伝導電子のスピン偏極が誘起される現象、Edelstein効果が現れる。本効果により生じたスピン偏極は磁性体中の磁化に対して有効磁場として働き、磁化にトルクが与えられる。本発表では、強磁性半導体(Ga, Mn)As中のバンド構造に起因して生じる内因性Edelstein効果、及びそれに由来するスピン軌道トルクを観測・実証した論文について紹介し、その原理を解説する。