物理工学輪講第二
6月25日
[注意事項]
輪講第二の「題目」・「要旨」は発表の1週間前までに office[at]ap.t.u-tokyo.ac.jp 宛てに送付して下さい。
発表日
2024年6月25日(火)14:55〜16:55

Aグループ

発表者名 小幡 響
指導教員名 吉岡 孝高 准教授
論文題目 反水素のレーザー冷却
要旨 反水素は、電子の反粒子である陽電子1つと、陽子の反粒子である反陽子1つから成る反原子である。この反水素の質量・エネルギー準位などの性質を高い精度で測定し、水素と比較をすることで、現代の物理学が前提としている、CPT対称性の検証が可能であると考えられている。その測定のために、反水素の気体原子を冷却してその動きを止めることが求められる。今回紹介する論文は、レーザー冷却と呼ばれる、原子による光の吸収と放出を利用した冷却方法を、反水素に適用したものである。本発表では、レーザー冷却の原理に加え、気体の温度と速度分布の関係、磁場による原子のトラップ方法などについても解説する。
発表者名 田中 陽帆
指導教員名 吉岡 孝高 准教授
論文題目 誘導放出を用いたレーザー冷却法
要旨 原子・分子の極低温までの冷却には、レーザー冷却が用いられる。レーザー冷却は、光の速度選択的な吸収と自然放出の閉じたサイクルを通じて粒子の熱運動を小さくする手法である。このとき、分子のように複雑な準位構造を持つ粒子では冷却サイクル外の準位への自然放出が問題になる。そこで、冷却レーザーの周波数をノコギリ波状に時間変化させ、誘導放出による準位選択的な脱励起を行う手法(SWAP)が提案されている。本発表ではSWAP中の粒子の内部状態と並進運動量の時間発展をシミュレーションした論文を紹介し、冷却レーザーのパラメーターと、SWAPの冷却限界や冷却効率の関係について議論する。
発表者名 廣田 佑我
指導教員名 吉岡 孝高 准教授
論文題目 希薄原子気体のボース・アインシュタイン凝縮の実現
要旨 ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)は、低温高密度のボース粒子集団において、マクロな数の粒子が基底状態に落ち込む現象である。この現象は、超伝導や超流動とも関係の深い量子多体現象として、基礎的に重要な意味を持つ。
本発表では、レーザー冷却や磁場による原子のトラップ技術を駆使した史上初の原子気体BECの観測実験および、BECの干渉性を実証した初期の重要な実験について紹介する。

Bグループ

発表者名 加藤 勇誉
指導教員名 十倉 好紀 卓越教授/上田 健太郎 講師
論文題目 ワイル半金属に特徴的な物性と物質例
要旨 ワイル半金属とは、3次元ブリルアンゾーン内の縮退が解かれた価電子帯と伝導帯が線形に交差し、その縮退点(ワイル点)付近にフェルミ準位を持つ系である。その構造は数学の概念であるトポロジーによって自明な電子構造と明確に区別される。例えば、ワイル点はトポロジカルに保護されており、外的擾乱に対して安定である。その他、その構造に由来した興味深い物性を示す。本発表では、物質中のトポロジーについて理解するのに必要なベリー位相の理論と、ワイル半金属の示す性質について紹介する。
発表者名 平野 沙織
指導教員名 十倉 好紀 卓越教授/上田 健太郎 講師
論文題目 創発電磁場の観測と応用
要旨 真空中の電子はマクスウェル方程式に従う電磁場の影響を受けて運動する。一方、固体中を流れる電子は磁気秩序や電子構造の束縛を受け、実効的な電磁場の影響を受けて運動することがある。この実効的な電磁場は創発電磁場と呼ばれる。本発表では、固体中の創発電磁場が生じる機構と、その観測例としてトポロジカルホール効果、創発インダクタンスについて解説する。創発電磁場はその機構からインダクタンスの微細化ひいては電子機器の小型化につながると期待される。
発表者名 本林 凌
指導教員名 十倉 好紀 卓越教授/上田 健太郎 講師
論文題目 銅酸化物超伝導体における多彩な磁気構造
要旨 銅酸化物高温超伝導体はかつて、いわゆる超伝導フィーバーを巻き起こし、未だに常圧での転移温度が最も高い物質群である。本発表では、電荷、スピン自由度の強い相関を有する銅酸化物における、超伝導相や磁気秩序について、強相関系の最も単純なモデルであるハバードモデルを用いて解説する。さらに、ストライプ相周辺での多彩な磁気構造ついて議論している最近の理論提案と、そこで期待される創発電磁場現象を紹介する。