物理工学輪講第二
5月13日
[注意事項]
輪講第二の「題目」・「要旨」は発表の1週間前までに office[at]ap.t.u-tokyo.ac.jp 宛てに送付して下さい。
発表日
2025年5月13日(火)14:55〜16:55

Aグループ

発表者名 石黒 勇樹
指導教員名 塚﨑 敦 教授
論文題目 交替磁性体薄膜を用いたトンネル磁気抵抗効果
要旨 反強磁性体と同じ磁気配置でありつつ時間反転対称性を破る交替磁性体が近年注目されている。将来的な磁気素子応用に向けてトンネル磁気抵抗(TMR)効果素子が検討されているが、これまでの理解では反強磁性体はTMRを示さない。しかしながら、交替磁性体は電子状態におけるスピン分裂が波数に対して異方的であることに起因してTMRを示すことが期待される。本発表では、交替磁性体候補物質Cr添加RuO2を用いたTMR効果の第一原理計算による理論的な提唱に関する論文を紹介する。
発表者名 東原 滉
指導教員名 塚﨑 敦 教授
論文題目 2層ニッケル酸化物における高温超伝導の観測
要旨 超伝導現象は、1911年に水銀で発見されて以降、多くの物質探索が進められ、1986年に銅酸化物による高温超伝導、2000年代に鉄系超伝導が発見され、現在も原理理解やデバイス応用への研究が精力的に行われている。
2023年になって、Ruddlesden-Popper型構造の2層ニッケル酸化物La3Ni2O7が高圧で超伝導を示すことが発見され、また2024年には薄膜においても超伝導が観測され、大きな注目を集めている。
本発表では、注目される2層ニッケル酸化物の超伝導について、関連する最近の論文を紹介する。
発表者名 野田 壮真
指導教員名 吉岡 孝高 准教授
論文題目 水素原子の精密分光によるプロトンサイズパズルの検証
要旨 2010年ミューオニック水素(陽子とミューオンからなるエキゾチック原子)を用いた実験から得られた陽子の電荷半径は、水素原子の精密分光や散乱実験によって導かれたCODATA(科学技術データ委員会)2014の値よりも4%ほど小さかった。水素による実験とミューオニック水素による実験で陽子の電荷半径が真に異なるならば、これは標準理論の見直しが必要なことを示唆し、「プロトンサイズパズル」として話題を集めた。本発表では2017年にこの問題を受けて水素原子に対する従来よりも高精度な精密分光を行い、陽子の電荷半径を求めた論文を紹介する。

Bグループ

発表者名 中山 想一朗
指導教員名 十倉 好紀 卓越教授・上田 健太郎 講師
論文題目 整数量子ホール効果のキソ:トポロジカル物性の観点から
要旨 整数量子ホール効果を題材に、バンドのトポロジーやチャーン数、AS指数定理などの概念を直観的に解説する。トポロジカル絶縁体やエッジ状態との関係を通じて、量子物性の新しい見方を提示する。
発表者名 岩間 新
指導教員名 十倉 好紀 卓越教授・上田 健太郎 講師
論文題目 遷移金属酸化物における高温超伝導
要旨 1986年のベドノルツ、ミュラーによる銅酸化物での高温超伝導体の発見を契機に「強相関電子」を持つ酸化物の本格的研究が始まった。銅酸化物超伝導体は、常圧で高い転移温度を持つことが特徴であり、常圧下で134Kの転移温度を示す物質も発見されている。本発表では、まずBCS理論で説明される従来型の超伝導体の基本的性質を紹介し、その後銅酸化物がなぜ従来とは異なる物性を示すのか解説する。また、鉄系酸化物やニッケル酸化物など、別の遷移金属酸化物も超伝導を示すことが確認されており、特に最近注目を集めているLa3Ni2O7についても紹介する。
発表者名 小野寺 響
指導教員名 十倉 好紀 卓越教授・上田 健太郎 講師
論文題目 カゴメ格子系のバンドトポロジーと異常ホール効果
要旨 トポロジカルなバンド構造や電子スピンのフラストレーションを持つ系として、2次元カゴメ格子系が近年注目されている。カゴメ格子系の特徴的な物性の1つとして、波数空間のベリー位相に起因する巨大な異常ホール効果が挙げられる。
本発表では、カゴメ格子系の持つ特徴的なバンド構造(ディラックコーン、フラットバンド)やベリー位相の概要を説明し、実際のカゴメ格子物質や異常ホール効果の観測例などを紹介する。