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談話会・セミナー

第2回物理工学科教室談話会[山本 浩史 教授・5/24(金)10時~]

講 師:山本 浩史 教授
所 属:分子科学研究所、総合研究大学院大学、東京大学
題 目:キラリティとスピントロニクス
日 時:2024 年 5 月 24 日(金)10:00~
場 所:工 6 号館 1 階大会議室(対面のみ)

Abstract:
「Chirality(キラリティまたはカイラリティ)」とは物質の構造が、その鏡像体と重ね合わせることができないという非対称性のことを指すために、1893 年ケルビン卿によって提案された語である。以来、Chirality は化学の分野で注目を集め、Chiral な分子を選択的に合成する不斉合成反応の開発では、これまでに多くのノーベル賞も授与されている。一方現在では、素粒子物理や物性物理でも Chirality という言葉は使われるようになっており、ディラック方程式のγ行列に Chirality 密度を表すγ5 が現れたり、固体中のスピンの配列として Spin chirality といった名称が使われたりしている。我々はこのような異なる文脈での Chirality が量子力学的にどのように関連しているかを、多極子表現によって解明しつつある[1, 2]。このような解析は、最近新たなスピントロニクスの手段として注目を集めつつある Chirality-Induced Spin Selectivity(CISS 効果[3])の理解にも役立つと考えられる。というのも、CISS 効果では電子が Chiral な分子を通過するときにその速度ベクトルと平行または反平行のスピン偏極を獲得するが、これはとりもなおさず電子にヘリシティ(弱相対論近似ではγ5 と同じ)を付与する過程と考えることができるからである[2]。また、CISS 効果に関連する実験研究として、我々は時間反転対称性が「偶」の電子ヘリシティから、時間反転対称性が「奇」の反平行スピン対が生じることを見出した[4]。このような効果を用いると、例えば垂直磁化した磁性体の表面で分子の Chirality を区別できることになる。最近我々は、超分子ヘリカルナノワイヤーを用いてそのような Chirality の分割を行った[5]ので、その結果も紹介する。

[1] J. Kishine, H. Kusunose, and HMY, Isr. J. Chem. 62, e202200049 (2022)
[2] H. Kusunose, J. Kishine, and HMY, arXiv:2404.13636 (2024)
[3] R. Naaman, Y. Paltiel, D. H. Waldeck, Nature Rev. Chem. 3, 250 (2019)
[4] R. Nakajima, HMY et al., Nature 613, 479 (2023)
[5] Aizawa, HMY et al., Nature Commun. 14, 4530 (2023)

紹介教員: 齊藤 英治 教授(物理工学専攻)、木村 剛 教授(物理工学専攻)