第2回 理論グループ共通セミナー (講師:大森 有希子 氏)
日 時: | 2011年6月28日(火) 17:00~ |
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※時間が通常と異なりますので、ご注意ください。 | |
場 所: | 工学部6号館3階セミナー室A |
講 師: | 大森 有希子 (物理工学専攻求研究室 PD) |
題 目: | 分子性固体(TTM-TTP)I_3における軌道秩序 |
Abstract:
これまで分子性固体の物性研究においては単軌道の強束縛模型が大きな成功を収めてきた。しかしながら近年、単軌道模型では説明のできない金属性・ 分子内反強磁性が単一成分分子性導体[Ni(tmdt)_2]および[Au(tmdt)_2]において発見され、これらが複数の分子軌道の混成に よるキャリア生成に起因していることが指摘された。
擬1次元導体(TTM-TTP)I_3は、[M(tmdt)_2]に続く多軌道系分子性固体である。(TTM-TTP)I_3はその組成比が 1:1であることから、これまでMott絶縁体のふるまいを示すと考えられてきた。しかし予想されるふるまいとは異なり、比較的高い伝導率を持つ 高温状態から、低温で非磁性の絶縁体へ転移する。さらにこの低温相において、分子の対称性が低下していること、すなわち分子内電荷秩序の可能性が 実験的に指摘された。
今回の発表では、この分子内電荷秩序化がHOMOとそのひとつ下のエネルギー準位を持つ分子軌道HOMO-1の作る軌道秩序によって理解できるこ とを報告する。はじめに、第一原理計算による有効模型のパラメータ値と平均場近似の結果について紹介する。得られたHOMOとHOMO-1のエネ ルギー準位は互いに接近しており、2軌道系を成す。さらにこれら2軌道が結合・反結合軌道の性質を持つことから、分子の左右に局在する仮想フラグ メント軌道を提案する。これを用いた平均場近似の結果は、2軌道のエネルギー準位差の小さい領域で分子内電荷秩序が現れることを示した。
分子の左右フラグメント軌道間で電荷の偏る状態は、HOMOとHOMO-1の軌道自由度
を表現する擬スピンのx成分によって表現することができ る。このことに注意して、次に汎関数繰り込み群による解析を行った。発表では、(1)2軌道の混成によってフントカップリングおよび軌道交換相互 作用が後方散乱・Umklapp散乱に補正を与え、擬スピンのx方向への整列を誘起すること、(2)波数空間での揺らぎを取り込むことによって非磁性相の領域が拡大されること、の2点を中心に報告する予定である。