第6回 理論グループ共通セミナー (講師:三澤 貴宏 助教)
日 時: | 2011年1月25日(火) 16:30~ |
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場 所: | 工学部6号館3階セミナー室A・D |
講 師: | 三澤 貴宏 助教 (物理工学専攻今田研究室) |
題 目: | 第一原理ダウンフォールディング法を用いた鉄系超伝導体の電子状態の解析 |
– 低エネルギー有効模型解析の立場から – |
Abstract:
遷移金属化合物や有機化合物のように電子間の相互作用が強い系、いわゆる強相関電子系では、電子相関に由来する高温超伝導や明示的な対称性の破れを伴 わない絶縁相(スピン液体相)といった興味深い電子状態が出現する。このような強相関電子系の電子状態を理解する上では、定量的に物性を評価する理論手法 の開発が重要である。今回の発表では強相関電子系の電子状態を第一原理ハミルトニアンから出発して理解するひとつの試みとして、最近我々のグループで開発 を行ってきた第一原理ダウンフォールディング法の原理と鉄系超伝導体への適用結果について発表する。
この第一原理ダウンフォールディング法では、第一原理バンド計算を出発点として、局在ワニエ軌道および制限乱雑位相近似法を用いることで、系の低エネル ギー物性を記述する有効模型を導出する。この導出された有効模型を、電子相関効果を高精度に取り込める低エネルギーソルバーを用いて解析することで、強相 関電子系の物性の定量的理解を行うことができる。低エネルギーソルバーとしては、近年開発された多変数変分モンテカルロ法を主に用いている。講演では、こ の多変数変分モンテカルロ法の精度及び利点について詳しく説明する予定である。
さらに、第一原理ダウンフォールディング法を近年発見された鉄系超伝導体の典型物質であるLaFeAsOに適用した結果についても述べる。この物質の基 底状態は反強磁性金属であるが、酸素をフッ素に置換することでTc~26Kの超伝導が発現して、鉄系超伝導体の爆発的な研究のきっかけとなった。中性子散 乱の結果から磁気秩序モーメントの大きさは0.3-0.6µBと見積もられており、飽和磁気秩序モーメントである4µBにくらべて非常に小さいことが謎で あった。我々は、低エネルギー有効模型の解析から、定性的な磁気秩序パターンだけでなく、磁気秩序モーメントを定量的に再現することに成功した。さらに、 LaFeAsOの解析を通して、鉄系超伝導体の磁気秩序モーメントの物質依存性が相互作用をスケールするひとつのパラメータλでよく説明できることを見出 した結果についても説明する。また、有効模型のバンド構造のなかに存在するディラックノードが、多くの鉄系超伝導体で反強磁性金属が幅広く存在している原 因であることも説明する。