第3回 理論グループ共通セミナー (講師:諏訪 秀麿 氏)
日 時: | 2010年6月29日(火) 16:30~ |
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場 所: | 工学部6号館3階セミナー室A |
講 師: | 諏訪 秀麿 氏(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 藤堂研究室) |
題 目: | 詳細釣り合いを課さないマルコフ連鎖モンテカルロ法によるスピンパイエルス転移の研究 |
Abstract:
マルコフ連鎖モンテカルロ法は物理学に留まらず、統計学、経済学、バイオインフォマティクスなど様々な分野で用いられており、一般の統計的問題に対して 必要不可欠な解析手法となっている。任意の初期状態が平衡分布に収束するために、通常釣り合いの式とエルゴード性が要請されるが、これまでは釣り合いの式 の十分条件として詳細釣り合いを用いる場合がほとんどであった。我々は最近、詳細釣り合いを課さずに釣り合いの式を一般に満たす全く新しいアルゴリズムを 考案した。このアルゴリズムは、状態遷移先の候補が与えられたとき、釣り合いの式を満たす範囲で棄却率を最小化することができる。また詳細釣り合いが破られる帰結として状態空間に確率の流れが存在し緩和を速める。我々は4状 態Pottsモデルにこの手法を用い、臨界点直上で熱浴法の約2.7倍、メトロポリス法の約6.4倍緩和が速まることを確認した。また量子モンテカルロ法 のワームアルゴリズムに我々の手法を用いることにより、この手法のボトルネックであるワームの跳ね返りを、最小化もしくは完全になくすことができる。この 改良により、磁場中ハイゼンベルグ鎖において、熱浴法より100倍以上緩和が速まることを確認した。今回開発したアルゴリズムは、我々が以前考案した粒子 数非保存系の量子モンテカルロ法に対しても用いることができる。これらの手法を用いることにより、これまで平均場以上のアプローチが困難であったスピンパ イエルス系の詳細な解析が可能となる。格子自由度と結合した一次元ハイゼンベルグスピン鎖は、断熱近似を用い格子を古典的に扱うと無限小の相互作用で基底 状態はスピンパイエルス状態となる。しかし格子の量子ゆらぎを考慮すると、有限のスピンフォノン相互作用で液体相からダイマー相への量子相転移を起こす。 我々はフォノンをスピン鎖と垂直方向につなげると、スピン液体相からダイマー相への非自明な量子相転移が起きることを見い出した。またCuGeO_3等で実験的に観測されている三次元の有限温度スピンパイエルス転移についても解析し、温度 を下げて行くと無秩序相から一旦ネール相を経て、スピンパイエルス相へ至る相互作用領域があることを示した。当日は我々の考案したアルゴリズムを紹介した 後、これらの結果について議論する。