物理工学科に興味を持つ
学生の皆さんへ

サイエンスは実験と理論を両輪とするとよく言われますが、私見を述べると、物理学は、実証実験と思考実験を両輪として発展してきた学問です。平凡な学生だった私は、初めて座学で量子力学を学んだとき、講義や教科書で出てくる式や計算の意味を掴めず四苦八苦しました。ところが、工学的なアイデアで実験系を構築し、量子現象を制御・観察できることがわかると、不思議な量子現象を現実として受け入れることができるようになりました。実は、量子力学は、実証実験と思考実験を両輪とする工学的なアプローチが大きな進展をもたらしてきた代表的な学問と言えます。ベルの不等式やシュレディンガーの猫に代表されるように、物理学者は原理的で深い洞察を新たな実験的舞台に展開し、それを制御する方法論とテクノロジーを開発することによって量子現象を理解し、量子物理学の理論体系を作り上げているのです。その過程で誕生した量子情報科学は、既に計算に利用されるようになってきただけでなく、その概念が広範囲な物理系に応用されるようになっています。量子系に限らず、物質の多彩な性質も、外力、熱、電気、光などによる工学的制御を想定した体系的な研究によって明らかにされています。物理工学科が軸足を置いている「量子技術」や「量子物質」は、いずれも工学的なアプローチによって基礎が確立する分野であると言えます。
半導体エレクトロニクスに代表されるように、現代社会の基盤を支えているのは物理学です。社会変化が激しい現代において、物理学が果たすべき役割は益々大きくなっています。産業的な要請に応える形で必然的に行われる工学的な「実証実験」や「思考実験」によって物理学が発展することは、歴史が証明しています。そこで展開される物理学は、社会の変化に関わらず通用する普遍的な法則であり、基礎と応用を区別するものではありません。むしろ、物質科学、量子情報、光技術、ナノテクノロジーなどの分野と技術が融合し、新たな普遍的物理法則を導く舞台が開拓されていくことを私たちは確信しています。
物理工学科では、物性物理学で世界トップの教員が、このような「物理工学」の最前線の研究を展開しています。ここで学ぶ学生の皆さんには、物理学と工学の両方を体系的に学ぶカリキュラムが準備されています。そうして培った基礎力をもとに、四年生の卒業研究では、研究室の一員として最先端の研究の現場に飛び込みます。世界を相手に戦う刺激的な研究生活をお約束します。同時に、研究を通して物理学の基礎が強固になることを実感できるはずです。物理工学科は、学生の皆さんが将来にわたって社会の中で活躍するための強力な基盤を提供する学科でありたいと考えています。