物理工学科に興味を持つ
学生の皆さんへ
物理工学という言葉から、皆さんはどんな学問を想像されるでしょうか。ひとつのシンプルな答えは「物理を応用した工学」だと思います。物理学に基づいた工学的応用を行い、社会の発展に貢献していくというものです。言うまでもなくこれは物理工学の重要な側面のひとつです。しかし本学の物理工学科には、もうひとつ重要な側面があります。それは「工学によって物理を革新する」というものです。すなわち、工学的な見地から物理学そのものの発展にも寄与していくという方向性があります。
歴史を紐解くと、19世紀に熱力学が誕生した背景には産業革命がありました。永久機関を作ろうとする試みが全て失敗したことが、熱力学第二法則の確立につながりました。また20世紀初頭には量子力学が誕生しましたが、その背景には溶鉱炉の温度を光のスペクトルから推定する需要がありました。古典電磁気学では両者の関係が説明できなかったことが、光量子仮説につながりました。そうして誕生した量子力学は、半導体や化学反応を理解するうえでも不可欠な、今日の科学技術の基盤となりました。このように、産業的需要が新たな物理を生み、その物理がまた産業的需要に応えていくという好循環が存在していると言えます。
21世紀に入ったいま、工学と物理学、あるいは産業的需要と基礎学理は、ますます切り離せない関係にあります。とくに物理工学科が焦点を当てているのは「量子物質」と「量子情報」の二本柱です。たとえばトポロジカル物質と呼ばれる量子力学的な物質は、室温で散逸のない電流を生み出すといった特徴から、低エネルギー消費の情報処理デバイスなどへの応用が期待されています。また、量子コンピュータや量子暗号は、量子力学の特性をフル活用して、古典コンピュータでは不可能な高速計算や、原理的に破ることが出来ない暗号を可能にします。いずれにおいても、物理学の深い原理と最先端の応用がダイレクトに結びついています。そして、物理工学科が世界的な研究拠点になっています。
物理工学科では、物理学と工学の両方を体系的に学ぶカリキュラムが準備されています。そうして培った基礎力をもとに、四年生の卒業研究では、研究室の一員として最先端の研究の現場に飛び込みます。世界を相手に戦う刺激的な研究生活をお約束します。
現在、世界は激変の時代を迎えています。そのような中にあって物理学には、世界のどこでも通用し、どのような時代であっても変わらず原理であり続けるという、普遍性があります。物理工学科は、学生の皆さんが将来にわたって社会の中で活躍するための強力な基盤を提供する学科でありたいと考えています。